【雑記】ゲームCG科の専門学校で1年間講師をした感想

雑記-Random Notes

実は去年の2020年2月ごろから隔週で専門学校の学生に授業を行っていました。
おかげさまで最初から最後まで指導していた学生は内定をいただけました。

上のツイートで喜ばしい反面、何か引っかかるような書き方だなーと感じた人もいると思います。
実はそれは正解で実際、受け持った人数の2割程度しか内定をもらえていません。
1年間通して行ったことや考えたことを書いていきたいと思います。

講師を始めた経緯

前提ですが私はとあるゲーム会社に勤めているサラリーマンです。
2019年12月ごろにとある方から専門学校で講師をできない人はいませんかという内容で紹介してもらいました。
自分自身、講師業に興味があり是非やってみたいなーっと思っていたのですが基本的に弊社は副業が禁止になっているため通常であればできなかったのですが興味があることとやってみたいということを弊社の上司に相談し、ある条件を元に特別に許可をもらい専門学校で講師を始めました。

その条件は、いくつかありますが最初の一年は隔週で行うことという条件でした。その為、専門学校では通常の授業という枠組みではなく、毎回特別講義という形で授業を行いました。

専門学校に依頼されていた授業内容

授業内容は下のような形でMayaをメインに使用したゲームの背景モデリングに関するテクニックを2,3年に授業してほしいという内容を専門学校から依頼されました。
2年生は2021年から就活、3年生は2020年から就活が始まるという感じ学生でした。
使用ソフト
MAYA、Photoshop

内容
背景モデリング
背景モデルはビルなどの建物から樹などの風景など多様なものに対して、モデリングのポイント解説
テクスチャ・ライティング
3Dモデルに対して、適切なライティング及びテクスチャを使用する
それに伴い、レンダリングまで行えるようになる

初めての授業でギャップを感じる

まあそんな授業内容、2月,3月の来年度の授業が始まる前に少しウォーミングアップがてら授業を2回ほど行うことになりました。

授業内容はテクスチャに関して、あまり知識がないためマテリアルなどを教えて欲しいということでした
その為、下の画像のようなArnoldとPBRのテクスチャを使ってレンダリングしていくような授業内容を考え準備し、挑みました。
内容としては単純でアルベド、ラフネス、メタルネス、ノーマルそれぞれのテクスチャやPBRに関しての解説、そして事前に用意したテクスチャをオブジェクトに適用し、レンダリングするだけの内容です。

しかし、この授業で何かがおかしいことに気付きました、1,2年間Mayaを使ってきたはずなのに動きが初めて触る人のように学生の速度が遅いのです。
話を軽く伺ってみるとそもそも学生がMAYAをメインに使っておらず、MAXをメインに使ってたそうです
じゃあなんでMayaで授業しろって内容なんだよ!と思ったのですがまあそこはいいだろうということで
一旦、それぞれの学生が何を目指しているのかを一人一人聞き取りをしてみました。
すると、ゲーム業界じゃなく、アニメ業界を目指している学生もいる。
そもそもアーティストを目指しているのではなくゲームデザイナー(プランナー)を目指している
という感じで学生の目指している先が授業内容とかけ離れているという状況でした。
そんな話を聞いてしまうとこのまま学校から頼まれている、背景モデルの授業をしていいのだろうかと不穏な気持ちになり、一部、背景モデラーを目指している学生もいるがそうでない学生の方が多く、正直な話この授業を行っても無駄ではないだろうかと感じました。

授業内容を一気に切り替える

背景の授業をしては無駄だと思い、授業内容を一気にそれぞれの学生が目指している職業に就くためには何をすべきかということを最初に伝え、そのあとは成果物に対してディスカッションしていくという形式にしました。

目指している職業に就くためには何をすべきか

まず、基本的にはArtistを目指している人が多かったため、目指している職業に就くためには何をすべきかということでポートフォリオの重要性を伝えました。
かいつまんで内容を書くと

ポートフォリオはゲームや映像企業にartistとして就職するために必要なものでクリエイターの就職・転職には欠かせないものである
学生のポートフォリオは基本的に何をしたいのか、そしてそれに対してどんなことができるのかを自分のことを説明する資料であること
誰に説明する資料なのか

そして、その内容を伝えたうえで授業内では自分の知っているすべてを教えられないということを下のようにプレゼンしながら示しました。

授業毎に1つの課題を徐々に作っていくような授業や義務教育のようなHow toを教えるような授業というのは就活に間に合わせるようなことはできないので「基本的には一人一人が作ってきたものに対して作品の方向性やクオリティについてのディスカッションを行いたいそして、自分たちのポートフォリオ制作に力を入れ、プロも認める作品を作ってください」ということを伝えました。
そのうえでプロも認める作品を作るにはどうしたらいいのかいうことを説明しました。具体的な内容は省きますが「やることを狭くしましょう。アーティストを目指している人はオリジナル作品というのは1年間の最終目標として掲げ、それを作る準備段階として自分が目標としている職種に関連するすでにある世に出ているものやすでに完成している作品を自分で再現することをおすすめします」というような内容を伝えました。

初めて学生の作品を見る

コロナの影響もあり、初回の授業は5月だったのですが上の内容を伝えた後に初めて学生の作品を見せていただきました。そして、また衝撃を受けました。
1名除き、アーティストを目指している学生が見せてきた作品は全員全く同じ作品だったのです。
キノコの家のヴィネット作品ではあったのですが下の画像のようなものでした。

画像は再現したものになりますがキャラクターアーティストを目指している学生もアニメ業界を目指している学生も全く同じものを見せてくれました。

最初に見せた頂いたキャラクターモデラーを目指している学生には困っていることはないですか?どうしたいと思っていますか?と確認すると「ポリゴンがかくかくしているところと滑らかなところがあって全部滑らかにしたいけどどうしたらいいかわからない」という内容でした。
ツールの操作に関してわからないのはまあいいとしても、それ以前の問題で1年、2年専門学校でCGを学んで上の画像のような作品しか作れない、作っていないという状況が異常に感じました。

そしてゲームデザイナーを目指している学生の企画書を見せてもらいました。
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※名前は伏せていますが許可をいただけたのでその時の企画書を載せています
※pdfはスクロールできます
マウスオーバーすると下の画像のようなバーが表示されるのでページボタンを押して移動してみてください

この企画書を率直な意見で壮大なストーリーがあるのはわかるがユーザーに対して何をさせたいのか、何がこのゲームの売りなのか何がしたいのかがわからない、そしてこれはゲームである必要性はあるのか?
それを伝えたうえで

自分の考えたゲームを一言で表すと何なのか
文字で説明しすぎないこと、隠すことも大事で隠すことで相手は気になって知りたくなる
ページの量は10ページもなくてもよい

3つの内容を考えたうえで企画を練り直してみようと提案しました。
その学生は最終的に内定をつかむことができたのですがこういった学生が多くどうしようと戸惑いました。

学生と講師の考え方に温度差がある

上のようなことを経験し、まず、学生の考え方に温度差があるなと感じました。(全員がそうとは言いません) まず、あまりいい考え方じゃないなーと感じた学生の考え方がありました。

あまりいい考え方じゃない学生たちの考え方

専門学校に来たからプロになれる
学校はすべてを教えてくれるから授業にさえ出ていたらいい
褒めてくれる授業は楽しい、デッサンのようなつまらない授業は義務教育みたいにでなくてもいい

しかし、実際はそうではなくて、色々自分で物を作ったり、学んだところで躓いたところを相談して
どんどん自分のスキルを磨いていく必要があるはずです。
実際授業時間だけモデリングをしたり、CGの勉強をしても普通に時間が足りないですし、それだけでは役に立たないことが多いからです。

もちろん、学生だけでなくあまりいい考え方じゃないな講師も当然います。
当然、自分を含め先生といってもちゃんと教育とは何かということを学んできたわけじゃないのでクオリティにばらつきは出てくるかと思いますが、実際に見てきたキノコの家のヴィネット作品を授業で教えていた先生がは何を教えたいのか意図がわからなかったですし、個人の技術が高くとも教育者としては微妙な人は多いでしょう。
中にはこんな感じの講師もいてもおかしくないのが

お金はいいのでとりあえず適当に教えといたらいいだろう
仕事なので専門学校から頼まれた授業はちゃんとします

なんで、そういった考えが生まれたのかを説明すると自分は講師業が初めてなのであまり高くなくてよいと前提を伝えたうえでかなり安めに契約したのですがそれでも隔週で行う授業は90分で五千円、それ以外で行う授業は90分で二万円でした。まあちょっと小遣い稼ぎに講師業するには十分な額です。
しかし当然、授業の準備をすれば時給換算した際にかなり報酬が低くなってしまいますが、しなければかなり報酬はとてもよいものです。90分適当に椅子に座ってあーだこーだ言えば5千円以上もらえますから
なので本業が別にある分、頑張って教えてあげようとしてくれる先生は珍しいのではないでしょうか
もちろん、最低限の授業を行おうという先生もいると思いますが学生の為に授業時間を割いて色々やってあげる先生は多くはないでしょう。
自分が学生だった頃を考えたとき、とりあえず、前に座って何もしないという先生の方が多かったですし、まあその事実と報酬を見比べたときに楽したい気持ちもわからんでもない。というのが正直な感想です。

まあそんなことは置いといて、より一層、自分たちの作品をどんどん作ってブラシュアップをしてほしいという思いもあり、授業内容としては基本的には作ってきた作品をみてディスカッションをし、時間があればテクニックなどを講義していました。

授業に来なくなる学生が出てくる

悲しいことに授業に来なくなる学生たちがちらほら出てきました。
元々あまり作品の出来もよくなく、それ自体に悩んでいる学生がいたため何とか解決したいなーと思い
本人の希望などを聞いたうえでいったんチュートリアルを見ながら作品を作って見てはどうだろうか?と提案したところやってみますということになり、次回の授業でそのできたものを見せてもらいますという形になりました。
チュートリアルはをやってみてくださいという内容でした
このチュートリアル2:57:06のチュートリアルでsubstanceを初めて使った人でも遅くとも10時間あればできる内容だろうと踏んで選びました。話した内容をまとめ伝え、当日を待ちました。

自分がどれぐらいの時間でどこまでできるかということを知る為にも時間はきっちり計りながらすることをお勧めします
1日3〜4時間できるという想定でしたので20時間でオイルランタンを完成させるつもりで行うといいでしょう
実際には4x7で28時間かもしれませんが余裕をもって行うのも大事なため20時間で完成させるつもりで行ってください
リファレンス集めは作業時間に含まなくていいですが3時間以上はかけない方がいいでしょう

しかし、当日作品は完成していませんでした。できなかったことより、私自身はそれに至るまでの過程が大事だと思っていたためできるできないはどうでもよく構わないのですが、本人もばつが悪いのか、歯切れがよくなく、話を聞いている限り感じたことはチュートリアルを行うということが面白くなく、苦痛だったのかと思います。いわゆる「聞くだけで英語がペラペラになる!」みたいなものを想像していたのに全く違い、結構地味で大変な作業をしかも、同じ通りにしていかなければならないという謎の修行をさせられたと感じていたのかなと思いました。
そして、とても残念なことに彼は結局その日を最後に授業に来ることはありませんでした。

伸びに悩み、奮闘した学生の話

来なくなった学生もいますが授業に毎回出てくれる学生もいました。
一番、やり取りが多かった学生はゲームデザイナー(プランナー)を目指している学生でこの学生は授業以外でも連絡を取り、どうすればいいのか毎回相談してくれていました。
正直な話、自分はゲームデザイナーではなくテクニカルアーティストなのでゲームデザインに関しては素人ではあったのですが、企画書を作った経験はあるため、自分の経験や客観的に見たときに変じゃないかなというところを責めていくようにしました。
その方法がうまくいったのか最初は壮大なストーリーを詰めた作品が多かったのですが徐々にこのゲームって何の部分が明確になって、どういったゲームなのか想像しやすい企画書になってきました。
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※許可を得たうえで名前は伏せています。

しかし、大学に行った彼の友人たちがどんどん内定をもらっているという話が心に重くのしかかったのか「専門学校じゃなくて大学に行けばよかったのかなー」なんて結構ディープな内容も相談してくださっていたのですが、そもそも4月の時点で準備ができている人と準備ができてなくて始めた人とはスタート地点が違うということと焦らず、今こなすことべきことを少しずつやっていけばいいと伝えました。

そんなこんなで奮闘しながら隔週の授業に毎回好評をし、ディスカッションをしながら方向性をまとめていきました
そんな10月のある日、とある企画を彼は送ってきました
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※許可を得たうえで名前は伏せています
内容としてはかなりシンプルなものですがテトリスのARみたいなゲームでした。おそらくすでにどこかの会社が似たようなゲームを作っているとは思うのですが企画のデザインや内容がものすごく事務的で前までの企画書はもう少しデザインに凝っていたのにどうしてこうなったのかを聞きくとこうでないといけないと思い込みが入っていたため、事務的なデザインになっていました。
遊びの内容は伝わりますし、別にそれ自体が悪いとは思いませんがせっかくなら「もう少し遊びを入れてもいいのでは?」ということで話していた中である企画が話題出ました。
それはこちらの記事にある改造人間は二度蘇るMAGNETIC GIRLの企画書で、これは彼が目標としているものの一つでした。
ゲームの遊びの部分はだいぶ良くなってきたと考えたため、せっかくなのでもっとデザインを凝ってみたらどうだろうかということで伝えるためのデザインを勉強してくださいと提案しました。
その過程でたくさんデザインの変更はありましたが結果的に下のような企画書に変わりました。
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※許可を得たうえで名前は伏せています
まだまだ、荒いところや詰めるべきことはたくさんありますが、こういった企画書をいくつか作ることができ、彼は無事1月に内定を取ることができました。

他にも元々ある程度できる学生には何処が変だと思う?どうしたらもっとよくなると思う?など質問をしながらお互いどう進んでいけばいいのかという話をしながら授業を行いました。
そういったことができた学生は内定を取ることができましたが、その中で来なくなった学生たちも多く、最終的に最後まで授業に来てくれていた学生以外は内定をとれなかったことを聞き、とても残念に思いました。
もちろん、来なくなった学生たちが最終的にCGやゲーム業界を目指しているわけではなかったため、授業に来なくなったことは別に問題ないのですが、学校卒業後もCGやゲーム業界を目指そうとしていると学生も数人いるという話を聞き、何とかできなかったのかなと思いつつ、なかにはクリエイターになりたいのではなく、憧れているだけのファンの学生もいるのも事実なので何とも言えない気持ちになりました。

うまくいった面もありますがうまくいかなかった面もたくさんあったため専門学校で講師という職業を経験したことはすごくよかったなぁーと勝手ながら思いました。


内定後は特にこれといって授業をする必要がなくなってしまったので残りの授業時間では
社会人として初めての一人暮らしでどれぐらいお金がかかり、どれだけ残るのか、自分の場合はどれぐらいかかっているのか
ふるさと納税やNisaなどの節税は行いましょう
転職するときどうしたらいいのか、年収ぶっちゃけどれぐらい?
みたいな話をしていました